ヴァレンシアという人はいろいろ悩んでいるようですが

まぁその、いろいろあるけど、現代のポップミュージックはずいぶんとひどいものになってしまっているね、と嘆きつつ本人はそれでもクオリティの高いサウンドをズヴィズヴァと聴かせてくれるヴァレンシア・クラークソン*1も34歳。デヴュー(唇を噛む)当時は二十歳そこそこだったんだっけ?日本に紹介された94年当時21〜22か。

とりあえず。

4枚目*2を聴いたり、5枚目*3を聴いたりしているが、日本ではデビュー曲「ガイア」のイメージが強すぎたのだろうか、その後の曲についての話を他人から聞かない。逆に「ガイア」だけは知ってる奴*4が何人もいたな。ひどいのになるとそのヴォーカルスタイルのせいで女だとばかり思っていた奴もいた。男なんだけどね。アジアと南欧系の混血*5の男前。デビュー当時は並のタレントなど物ともしない(ルックスではそこらのイケメンにもまったく引けを取らないはず。)美青年だったんだが・・・いろいろあって目つきがキツくなってませんか、ヴァレンス?
まぁ、女性と間違える人の気持ちは分かる。なんせ本気でハイトーンで歌おうものならケイト・ブッシュばりに響く歌声の持ち主なのだから。ケイト・ブッシュフレディ・マーキュリーを足して2で割ったようなシンガーだと思ってくれれば多分間違いない。どっちにも近く歌えるようだしね。*6実際、男性シンガーでもこれほどの美声の持ち主はあまりいない。*7

トリック・ポップスの使い手

でも、「ガイア」は彼にとっては個性の一側面でしかない・・・というより、この人の音楽の真の姿は他にあるように思える。実際「ガイア」のようなシンフォニックな楽曲は彼の全作品を通しても両手で数えられるほどしかない*8。どっちかというと、トリッキーなポップスの人、というのが俺の個人的印象。そのルーツはメジャーどころではクィーン、マイナーなところではカヤック*9などにある・・・というのは昔の同僚のロックマニアの受け売りなわけだが*10、俺も日本盤リリース以降アルバムは「ザ・ブルー・アルバム」まで付き合ってきて*11思ったけれど、凄くイヤな言い方をするとモダン邦楽=J−POPに馴染んだ耳にはいささか風変わりで訳の分からないサウンドに聞こえる曲があるかもしれないな、と思う。ころころ変わる調律、やたら盛り込まれた様々な音色、意味不明の歌詞*12と美麗過剰のハーモニーが織りなすめくるめくお花畑サウンド(笑)なんである。ジャンル的にも特定が困難で、実際ぱっとわかるだけでもスカ、レゲエ、ポップ、ロック、メタル、クラシック、ジャズなどのスタイルをごった煮にしている痕跡が各所に見られる。俺みたいに多彩な音色を盛り込んで綺麗な響きを聴かせてくれるアーティストを好む人間はともかく、最近流行のロックではそういうのではなく、速くて叩いててヴォーカルがやたらわめいているというもの*13が多いわけで、そういうのを好んで聴く人にとってはそんなに面白くないだろうと思う。*14

「ガイア」のころ

書きながら、1stアルバム*15を聴いてみる。しっかし変わってねぇなこの人は、と思う。いい意味でな。まぁ、彼のサウンドはかなり早い段階でスタイルを確立しているから、ドラスティックな変化があるとも思えない。ただ、徐々に変化している部分はある。3rd*16などは特にそうだろうか。*17
1stといえば1曲目「テレ(Tere)」のイントロのコーラスがひどく美しいと感じたことを思い出す。初めて聴いて「おおっ♪」と思ったおかげで、俺は彼のサポーターを続けているのである。実際には先に聴かされていて「ガイア」と「ナタリー」を知っていたんだが*18聴いて気に入ったのはこの「テレ」や「タンゴ・タマラ」といったあたりだったので、その後のアルバム、特に4th〜5thで明らかに直系続編と思われる曲が次々に登場した時には内心ニヤニヤしていたものだ。
そうそう、本作ではロビー・ヴァレンタインがピアノで参加しているが、わざわざピアノを弾きにいく彼が「らしい」。

宇宙に咲くコスモス

2ndアルバムを聴いて、実は少々戸惑った。というのは、「サンダーボルト」でダンスミュージック的なアレンジが登場したからだ。なんだってまたそんなことを、という気分になったのを覚えている。なにしろ彼らしくないので。しかしそれは杞憂だったようで、まぁ前作から一歩進んだものを多く聴かせてもらったな、と。
俺のお気に入りはまずアルバム冒頭の「アクセプタブル・トゥルース(The Barely Acceptable Truth Of Knowing)」。ある意味では「ガイア」直系に思えるが、実際はそうでもない、か。独特のスケール感と美しさが心地よい曲。サビのフレーズもいいしね。でも「イオンでできたオーロラの味」ってのはさすがによくわからん(笑)いや、その訳のわからなさがいいんだが。単純においしそうですけどね。
「シック・ミスティック&エキセントリック」という曲のタイトルには思うところがある。俺が好きになる女性は揃いもそろってそんな人ばっかりだ!(爆笑)だが、そこがいいのだ。うん!*19
「ネヴァー・アイズ」が好きだ。ヴァレンシアの曲の中では比較的音数が少ない曲。しかしピンポイントでいい音色が入ってくる、そんな曲。テンポはゆったり、ヴォーカルは優しいハイトーン。シンプルな曲なこともあって、ついつい聴き返す味わい深い曲。こういうのを「いい歌」というんじゃないかと、よく思う。最後に終わったと見せかけて入るギターの音も、味。血も目の色も違っても、僕たちは絆で結ばれた友だ。愛しているよ。そういう歌。ラヴソングなのか、それ以外の何かなのかは、さすがに知らない。ただ、深い優しさだけは一級品。紛れもなく。いまだに好きな曲の一つ。
ヴァレンシア20歳当時の悲しい記憶から生まれた名曲「マスカレード」はサビが秀逸。メロディも綺麗だし、加えて絶妙のコーラスがそれを引き立てる。*20しかしこの2ndアルバム、こういうスローナンバーがことごとく当たりというのはどうなのよ?いっぺんヴァレンシアのバラードナンバーだけ集めてみようかしら。
アルバム最後の「ブルー・レイン」もいい。こっちは曲自体ステキな上に、最後にイカしたサックスソロまでついてきて、聞き応え充分。浜辺で酒片手に聴きたい曲。

星の海のヴァレンス

3rdの最後を飾る・・・文字通り「飾っている」ナンバー「ミレニアム」は、デビュー曲「ガイア」の曲調を最も強く継承する曲。2ndにも「K・O・S・M・O・S」があったが、あっちは正直後味がイマイチだと思う。まぁ、「ミレニアム」もあわせて3部作とでも思えばまだ楽なんだが。そんなわけで「ミレニアム」は壮大なスケールの大作。細部のフレーズの美しさももちろんだが、終曲部の堂々たるコーラスには圧倒される。なんというか・・・こう、凄い。
4thでは「ボヘミアン・ラプソディー」まんまの「ファントム・オブ・ジ・オペラ」で「やっちゃった」感があるが、「ジャクリーンのための鎮魂歌」という壮絶な名曲を収録している他、いい曲を多数用意。中でも「イルジア」のサビの官能的な味わいは特筆に値するだろう。南欧風ともオリエンタルともつかないメロディとリズム、それを盛り上げるコーラスワークが聴く人間を徹底的に魅了する。
5thに関しては一発目「マイテ」のイントロからして強烈。以下もいい感じではあるが、ここでは最後を締める「ヴァレンシアン・ジャズ」に注目。ヴァレンシアのやり方で書かれたジャズもどき*21ともいうべきもの。本人が言うよりはジャズしてるよ、これは。

Vを二つ重ねても彼らは宇宙を支配したりはしない

ロビー・ヴァレンタインとの合作については、なんせ直後に例の事件があったんで一ファンとしては複雑な想いなわけだが、この「ヴァレンタインvsヴァレンシア」アルバムではお互いの作風を模倣してみたりして面白い。結果、これまでよりも聴き応えあるものが揃ったというのは何の因果か。
中でも「ヴィジュアライズド(V−sualized)」はヴァレンタインの手法をヴァレンシア流ポップスに取り込んだ結果、異様に攻撃的なハードポップになっている。この妙なエッジがたまらないのだ。元々ロビーはハードだが繊細、ヴァレンスはソフトでマイルドだが時々裏に凄まじい悪意を秘めていることがあるので、融合した結果明らかに「2、3人ぶん殴ってます」って感じの曲が出てきたのは・・・笑えるわ。ただ、「例の事件」で二人が決別したことを考えると、この歌詞は裏を読まずにいられない。それがちょっとね・・・。

これから

「アンプラグド」以降の新作の話は聞かないが、ロビーよりはマシでは?なんせあっちは新作である7th「ザ・モスト・ビューティフル・ペイン」の発売をかれこれ1年半も延期されているのだ。その間に新バンド「KissmeT」の活動もスタンバイに入っているし、その次もある。それらをことごとく足止めされている彼を、ヴァレンシアはどのように見ているんだろうか。

さて、その後彼らは和解して再び結託した。上で触れたヴァレンタインの「その次」の一つはヴァレンシアとのコラボレーションアルバム第3弾だと言われている。しかも準備も着々と・・・しかし、出るのかソレ?出たとしたらどんなんだろうね。個人的には相当恐ろしいものを期待しているのだが。

*1:フルネームはアルドゥス・バイロン・ヴァレンシア・クラークソン。略して「アルディ」と言う人もいるそうな。

*2:「ガイアII」。2000年リリース。

*3:「ザ・ブルー・アルバム」。2002年リリース。

*4:その直系続編2曲についてはどうなんだろう。聴いて確かめていただきたい気分ではある。

*5:一方の親がインドネシア出身なんだそうだ。

*6:ただし、ガチでキレてる曲の時には別モード「アンバー」を使うのだが。この「アンバー」も個人的には好きだったりする。

*7:違うタイプのいい声のシンガーとしてはキャメロットのヴォーカル、カーン(ロイ・S・カーン)を推したい。あれはあれで上手い。

*8:「ガイア」の路線だと「K・O・S・M・O・S」「ミレニアム」くらいじゃなかったかと思う。ちなみに筆者のお気に入りは「ミレニアム」。アレは本当にいい。

*9:まぁ、実際どうなんだろう。カヤックは俺はよく知らないバンドなので・・・。

*10:実際俺にロビー・ヴァレンタインやヴァレンシアを聴かせたのはこいつ。こいつがいなかったら俺の音楽観はもっと狭かった可能性がある。ここで御礼申し上げておく。ちなみに彼はヴァレンシアと同い年である。

*11:2004年リリースの「アンプラグド」はこれから買います・・・。

*12:その究極が5th収録の「ア・ナイト・イン・スペイン」。なんとサビ以外は意味のない文字と数字の羅列だけで出来ているというシロモノ。しかし実際には非常にミステリアスな響きが楽しめる。

*13:俺はあまり好きではない種類のサウンド。綺麗さもパワーも、カッコよさも神経に引っかかる味わいも感じないからというのが理由。美しくない音楽は好きになれない。

*14:言っちゃなんだが、あの程度のヴォーカルなら俺にでも出来ます・・・ごめん、俺の方がまだうまいよ、間違いなく。声にだけは自信あるですよ、一応。

*15:「ガイア」。1994年リリース。

*16:便宜上「VIII」と呼ばれるアルバム。正式タイトルが異様に長いので普通はこう呼ぶ。

*17:そういえば「アンバー」を投入してきたのもこのころ。どうやら奴はゲイに掘られそうになったらしく、その経験をそのまま歌にしてマジ切れしていた。そこに投入されたのが彼のアナザーフォーム「アンバー」だったというわけだ。

*18:この2曲で1stアルバムの購入を決めている。

*19:この「うん!」を清水愛の声で読むのを「舞-HiME」視聴者にはおすすめしておく。美袋命はいいキャラでした。

*20:実は一時期(ごく短期間だが)、このサビをソラで歌えた時期がある。今はもう歌えないが、いつ頃どうして歌えたのか、今はどうして歌えないのか、そのどちらもわからない。

*21:「もちろん、これはジャズじゃない。これはヴァレンシア風ジャスなんだから。」・・・本人談。