私感/美しく可憐な旋律の集積体

「3大ヴァイオリン協奏曲」といえば本作とベートーヴェンメンデルスゾーンのものを合わせてそう呼ぶのだが、この曲は3作品の中では一番新しく、そして明らかに浮いている。はっきり言うと他の2作品は品がありすぎて、俺のような俗物には親しみにくいところがあるのだ。ベートーヴェンのものは印象にも残らなかった(苦笑)し、メンデルスゾーンのものは俺にとっては最初のクラシックだった(!)にも関わらず、やはりチャイコフスキーのものほど好きにはなれていない。(いや、確かにあれもいい曲だ。3楽章が綺麗につながっているし、特に終楽章ラスト、ソロヴァイオリンのトリルから溜めを解き放つ怒濤の盛り上がりはかなり熱い。終曲間際に現れるソロヴァイオリンのメロディにもいいものがある)
メンデルスゾーンのものと比べると、確かにあっちの方が品があるし、全体も整っていて美しい様式美を誇るものであることは確かだ・・・と思うのだが、それはどこか暖かみに欠けると感じる。そもそもメンデルスゾーンのものは基本調律がEマイナー(ホ短調)である。この調律は独特の重さ、格調を秘めた「力の調律」であると俺は考えている。
代表的なものを挙げてみようか。

なんてところが挙げられる。もっとマシな例はないんかいという気もするが、まぁわかりやすさ重視で。(ヴェイパートレイルもスカルファングもEマイナーだな)
で、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲はその一つ下のDメジャー(ニ長調)。この調律の方が暖かみや美しさが出ると思う。それに加えてチャイコフスキーロシア民謡を原点とする美旋律の名手だ。このヴァイオリン協奏曲では特に第1楽章のメロディがそうなのだが、聴く毎に「そう来たか!」と思わせるようなメロディの動きを見せるのである。後半では一時的に半音上がってE♭メジャーになりさらなる美しさを見せる部分や、続く流麗なフレーズでの神秘性と哀切を合わせ持つ響き、さらに小気味よく次々に音を変えて動くフレーズなど、部分部分をピックアップして見ても心地よい展開が連続する。しかしどこか音色が崩壊寸前の危うさを秘めているような印象も少なからずあり、その繊細さがまた何とも言えない「味」になっている。
第2楽章の哀愁漂う雰囲気もいいし、最終楽章の流麗かつ軽快な賑やかさも魅力だ。特に最後の最後に入るソロヴァイオリンのひねったような音色がいい。ここでそれまでの速度を急に落として演奏する人とそうでない人がいるが、前者の方が音を印象付けるのには効果的だろう。作曲者の遊び心が最後まで徹底しているように思える。

結局、どこか大味と言えば大味な気もしなくはないのだが、それだけにやたらに人間くさいのが魅力ではないかと思われる。それに美旋律の名手が生んだだけに、ソロヴァイオリンのフレーズの美しさは他2作品を上回る。優しく美しく人肌の温もりがある協奏曲、というのが本作の個性、持ち味ではないだろうか。