グラスの中の波

グラスに水を注ぎ、一気に飲み干した。最初は、一口だけ飲んでからつぎ足すつもりだったのだが、「もうちょっと飲むか?」と「このくらいでいいか」をかなりの速度で行き来するうちにグラスを空けてしまった。本人も「あれ?」と思っていたところだ。
飲み始める前は予想もしなかった結果だが、もし飲み干さずにつぎ足していたらどうなっていたか。
その答えを知っている奴がいるとしたら、そいつは「シュレーディンガーの猫」の命題に解答を出せる奴に違いないな、と漠然と思った。

俺たち人間は、いつも巨大な木の枝の末端にいる。その木は常に伸び続け枝分かれし、他の枝の姿は想像することしかできない。
この巨木の姿を常に把握し続けるには、時間を巻き戻したり早送りしたり、好きな場面をいつでも何度でも再生できるようにならなくてはならない。DVDみたいにな。

ほら、無理でしょ?時間が不可逆な「生物」である限り、これが限度らしい。
いや、そもそもこんなことをいちいち考えている俺が変なのは認めますが。

だが、時間はどうやら不可逆とは限らない、らしいぜ。